中島尚子

Nakashima Naoko

  祖母は、伊豆半島先端近くにある海と山に挟まれた小さな集落の、築百数十年という大きな屋根のある家で暮らしている。学校の長期休暇毎に家族に連れられて伊豆の家を訪ねるのが、私の子供の頃の楽しみだった。今は毎年お盆の頃、1人で祖母に会いに行くのが習慣になっている。2020年5月現在、ウィルス拡散防止のため、県境をまたいだ移動は自粛するようにと発表されている。今年の夏は伊豆の浜を歩けるだろうか。

 外出自粛中、「今自分が見たい絵はどんな絵だろう」と考えた。そして、数年前の夏の伊豆の光景に思い至った。大きな屋根の下の室内はいつでも薄暗い。早朝、風を通すため窓を開けると、外は既に明るく、エアコンの室外機の上には朝食待ちの三毛猫がいた。

 「アマビエ」というこの展覧会のお題に対して自分はどう答えるのか。私はアマビエを見たことがない。その類いのものは見えない体質だし、見たことがないものは描けない気質だ。アマビエについてwebで読むうち「光」という言葉が目に留まった。アマビエは光の中から現れたという。光なら私も見たことがある。というか見えているものは全て光だ。光なら描けるかも知れない。

 早朝の光の中から現れたのは、妖怪ではなく空腹の三毛猫である。恐らく御利益は期待できないが、せめてこの絵が見る人の生活に穏やかな光を添えるものとなればと願っている。

 S 邸之図 – 光

nakashima


 木口木版/越後門出和紙雁皮紙 size:  17 × 15 cm ED40 
略歴
 1981年神奈川県横浜市生まれ
 2006年武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻卒業
個展
 2013、14、17、20年artTruth(横浜)/2018年展示室showroom-Tokyo(東京)
2015年新潟絵屋(新潟)/ 2014年長府毛利邸(下関)/ 2013年鎌倉かわうそ(鎌倉)他
HP
 http://www.naokonakashima.com