林 孝彦

Hayashi Takahiko

 心の中の『アマビエ』

 疫病がはやったら、『アマビエ』を写して人に見せなさい。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、江戸時代の妖怪にまつわる言い伝えが、現代においてなお、人々に広まっています。
 そんな状況下での作品制作にあたっては、悩んだ。世にアマビエ画像があふれている。不安な時、人はむしろステレオタイプな形にすがりたいものだ。自分に果たして、多くの人の願いに寄り添う対象になりうるイメージが描けるのだろうか。
 僕は、何を写す?具体的なモノを写すことを自分の表現としてきていない。下書きをして完成形をつくっていくプロセスすらとらない。いつも本番。その真剣さが命。混濁する思いのままを銅に彫る。浄化、願い、祈り、誓ふ(うけふ)・・いろいろ言葉が浮かんでは消える。邪気を吹き飛ばす風、異界のもの、海の浄化する珊瑚、空気を浄化する植物、水を濾す(こす)魚のエラのような、澱む空気を切るシャープな羽のような・・・揺れる心を線で手繰る。手繰るように線を彫る。 繊細さ、清涼さ、奥深さ、そうだ雁皮紙の紺紙を使おう。色は・・宗教画っぽくなるのはさけたい・・・。僕は結局、いつものように、たわいない日々を積み重ね描き彫る。


 題名は『古事記』から頂いた。人に制御できない事態に対し、誓ひ「ウケヒ」とは神意に従うこと。「ウマム」は生みましょう。神の意志と言いつつ、自らこう言い放って生み出されたものは、きっとその通りになる。それが神意!的な楽天的原始コトダマ信仰みたいな考えに、環境や生活様式は変わっても、人は変わらないんだなぁとちゃっかり頂いた。

 ウケヒテ ウマム

hayashi
エングレービングによる銅版画 紺雁皮紙シンコレ刷り
size: 19.8 ×11.7 cm ED60
*略歴
1961 年岐阜生まれ、画廊での個展を中心に発表。個展は通算 179 回(うち海外 17 回)
近年は、グローバルにグループ展やアートフェアーへも出品するとともに SNS(tumblr, instagram, pinterest など)を通じた online 作品発信を続ける。
上記3つのフォロワー数は合わせて 2 万 8 千人超。
*パブリックコレクション
国立国際美術館, 東京都現代美術館, 大阪府立現代美術センター, 滋賀県立近代美術館, 岐阜県美術館, 美濃加茂市民ミュージアム, 豊橋市立美術博物館, 黒部市立美術館, セゾン美術館, ブリジストン美術館, 東京オペラシティアートギャラリー, 武蔵野美術大学資料図書館, 佐藤美術館, クイーンズランド州立美術館(オーストラリア), ニュウサウスウエールズ州立美術館(オーストラリア), アルバータ州立大学(カナダ), ポートランド美術館(USA), ロサンゼルスカウンティ美術館(USA), ワシントン米国議会図書館(USA), 国立台湾文学館, チェスタービーティーライブラリー(アイルランド), Oregon Health & Science University, Portland, OR(USA)DBG Architects, Portland,OR(USA), Jordan Schnitzer Print Collection,Portland, OR(USA)

作家ポータル:linktr.ee/Takahiko.hayashi